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それぞれの道へ…… また逢える日まで

Author: 液体猫
last update Last Updated: 2025-06-16 06:33:38

 |全 思風《チュアン スーファン》は微笑みながら首を左右にふった。

 隣には|牡丹《ボタン》をはじめとした、|神獣《しんじゅう》たちがいる。|牡丹《ボタン》と|椿《つばき》は動物のように鳴きながら、|麒麟《きりん》に|慰《なぐさ》められていた。けれど、決して子供の元へ駆けよることはしない。

 そんな|神獣《しんじゅう》たちを横目に、彼は苦く笑んだ。愛する子である|華 閻李《ホゥア イェンリー》を見、穏やかに微笑む。

「|小猫《シャオマオ》、君の部屋に行って一緒に眠ったとき、私は|焦《あせ》ったんだよ。だって、好きな子と一緒の|床《ベッド》で寝る事になるんだから」

「……|思《スー》」

 |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》に横抱きにされたまま、子供は声を絞りだす。

「君の服を買って、一緒に野宿もして。ご飯をいっぱい食べた事には驚いたけど、それでも全て可愛いなって思ったんだ」

「す……」

 体力の消耗が激しいようで、少年は彼の名を呼ぶことができなかった。それでも両目だけは開けておかなきゃと、苦しさを堪えて彼を見つめる。

 彼は子供の素直さに、ふふっと笑んだ。天を見上げれば、|硝子《がらす》のようにひび割れが起きている。ときおり、パラパラと粉末のようなものが落ちてくるが、視線を子供へと戻した。

「……扉の中は間もなく、元へと戻るだろう。だけどそうなったら君たち人間は、ここにはいられないんだ。私や|麒麟《きりん》たちのように、人ではない者だけが住める。それが扉の中……|桃源郷《とうげんきょう》の正体だ」

 一連の事件は全て、|桃源郷《とうげんきょう》を求める者が起こしていた。けれどその者ですら、この扉の中全てが|桃源郷《とうげんきょう》にあたるとは知らなかったよう。

 闇に|蝕《むしば》まれていた|四不象《スープーシャン》は両目を大きく見開き、小首を傾げていた。

「──|黄 沐阳《コウ ムーヤン》、私はあんたを認めるよ。あんたが頑張って変わろうとしている姿を、しっかりと見てきたからね」

 ふと、彼は|黄 沐阳《コウ ムーヤン》を凝視しする。

 黄色の|漢服《かんふく》を着た青年は、突然|誉《ほ》められたことに慌てふためいた。けれどすぐに姿勢をただし、両手を|漢服《かんふく》の|袖《そで》の中で組んで頭を下げる。

「ありがとうございます。|冥界《めいかい》の王よ。あなたの|助力
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  • 鳥籠の帝王   それぞれの道へ…… また逢える日まで

     |全 思風《チュアン スーファン》は微笑みながら首を左右にふった。 隣には|牡丹《ボタン》をはじめとした、|神獣《しんじゅう》たちがいる。|牡丹《ボタン》と|椿《つばき》は動物のように鳴きながら、|麒麟《きりん》に|慰《なぐさ》められていた。けれど、決して子供の元へ駆けよることはしない。 そんな|神獣《しんじゅう》たちを横目に、彼は苦く笑んだ。愛する子である|華 閻李《ホゥア イェンリー》を見、穏やかに微笑む。「|小猫《シャオマオ》、君の部屋に行って一緒に眠ったとき、私は|焦《あせ》ったんだよ。だって、好きな子と一緒の|床《ベッド》で寝る事になるんだから」「……|思《スー》」 |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》に横抱きにされたまま、子供は声を絞りだす。「君の服を買って、一緒に野宿もして。ご飯をいっぱい食べた事には驚いたけど、それでも全て可愛いなって思ったんだ」「す……」 体力の消耗が激しいようで、少年は彼の名を呼ぶことができなかった。それでも両目だけは開けておかなきゃと、苦しさを堪えて彼を見つめる。 彼は子供の素直さに、ふふっと笑んだ。天を見上げれば、|硝子《がらす》のようにひび割れが起きている。ときおり、パラパラと粉末のようなものが落ちてくるが、視線を子供へと戻した。「……扉の中は間もなく、元へと戻るだろう。だけどそうなったら君たち人間は、ここにはいられないんだ。私や|麒麟《きりん》たちのように、人ではない者だけが住める。それが扉の中……|桃源郷《とうげんきょう》の正体だ」 一連の事件は全て、|桃源郷《とうげんきょう》を求める者が起こしていた。けれどその者ですら、この扉の中全てが|桃源郷《とうげんきょう》にあたるとは知らなかったよう。 闇に|蝕《むしば》まれていた|四不象《スープーシャン》は両目を大きく見開き、小首を傾げていた。「──|黄 沐阳《コウ ムーヤン》、私はあんたを認めるよ。あんたが頑張って変わろうとしている姿を、しっかりと見てきたからね」 ふと、彼は|黄 沐阳《コウ ムーヤン》を凝視しする。 黄色の|漢服《かんふく》を着た青年は、突然|誉《ほ》められたことに慌てふためいた。けれどすぐに姿勢をただし、両手を|漢服《かんふく》の|袖《そで》の中で組んで頭を下げる。「ありがとうございます。|冥界《めいかい》の王よ。あなたの|助力

  • 鳥籠の帝王   明日へ

     |彼岸花《ひがんばな》から生まれたそれは、|華 閻李《ホゥア イェンリー》が得意とする武器であった。それが無数に連なり、|弾《たま》が発射される。 |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》は大剣を盾にして、それらを弾く。しかし彼の持ち味は力強さにある。細かな動きは不得意なため、すべてを弾き返すことは無理であった。打ち洩らしたそれは先のない空間へと飛んでいく。  |爛 春犂《ばく しゅんれい》はそんな彼とは違い、素早さを生かした攻防を繰り広げていた。目に見えぬほどの速さで剣を抜き、居合いで|弾《たま》を切り刻む。それでも次々と向かってくる|弾《たま》に、札を用いて応戦した。 |黄 沐阳《コウ ムーヤン》は札で結界を張り、後ろにいる少年を守っていた。眠り続ける子供、そして|朱雀《すざく》と|四不象《スープーシャン》。ひとりと二匹が微動だにしない状況で、結界を作り守護することが精一杯のよう。 額から汗を流し、くっと眉を曲げた。 |麒麟《きりん》たち|神獣《しんじゅう》はそんら彼を助けるため、|弾《たま》の的になりながら避けている。 ──数では、圧倒的にこちらが有利だ。でも相手は|小猫《シャオマオ》の霊力と能力を使っている。前に|爛 春犂《ばく しゅんれい》が、【霊力や術でなら|小猫《シャオマオ》の右に出る者はいない】って云ってたけど。まさかそれが、こんなかたちで現れるなんて…… どんなに|屈強《くっきょう》な仙人であっても、戦闘経験豊富であっても、神に近い存在の獣たちであっても、|華 李偉《ホゥア リーウェイ》というひとりの子供には勝てない。 純粋に闘った場合、勝てはしない。 |非凡《ひぼん》な才能を持つ子供のことを、この瞬間に誰もが恐ろしいと考えていたようだ。少年への評価が、守られるだけの子供から強者へと変わっていく。「……|小猫《シャオマオ》、皆、君の

  • 鳥籠の帝王   真相

     闇に飲みこまれ、全てを閉ざした|華 閻李《ホゥア イェンリー》は、山よりも高い|彼岸花《ひがんばな》の中に隠れてしまった。 開花すらしない花は力の暴走を始め、扉の中にある世界に異変を|催《もよお》す。 彼らがいる真っ白だったこの場所は、地獄のようにドロドロとした空間になっていった。地、空、空気。それらが全て、漆黒へと|変貌《へんぼう》してしまう。 けれどそれは、扉の中だけに|留《とど》まることはなかった。『──王様、人間界の様子がおかしい!』  いち早くそれを察知した|麒麟《きりん》は、急いで|白虎《びゃっこ》と|青龍《せいりゅう》を集める。 |白虎《びゃっこ》の|牡丹《ボタン》は地面に大きな円を描いた。|青龍《せいりゅう》の|椿《つばき》はそこに青い|焔《ほのお》を吐く。そして|麒麟《きりん》が一声鳴いた。 瞬間、円は鏡のようになる。そこに映るのは人間たちの住む世界の光景だった。 水の都である蘇錫市(そしゃくし)を始め、|黄家《こうけ》のある町など。今まで|全 思風《チュアン スーファン》が、子供とともに訪れた町や関所などが映しだされていた。それらの地域は数々の|災厄《さいやく》に合いながらも、何とか立て直すことに成功している。 しかしその成功が、|脆《もろ》くも崩れていく瞬間が映っていた。 地をはじめ、建物や木々など。あらゆる箇所に蒼い|彼岸花《ひがんばな》が現れていた。あるだけで、それ以上のことはない。 けれど、なかには開花しているものもあった。そしてそれに触れた瞬間、人も動物も、生きている者は全て、|殭屍《キョンシー》へと成り果てていく。当然彼らに噛まれた者は感染し、|増殖《ぞうしょく》していった。「……な、何だこれは!?」 |爛 春犂《ばく しゅんれい》たちは驚愕する。|黄 沐阳《コウ ムーヤン》は両目を丸くし、|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》に至っては悔しげに地面をたたいていた。『わからない。わからないけど……|拙《せつ》が体を借りてた女の子を育ててくれてる人たちが、叫んでたんだ』 少女に恩がある|麒麟《きりん》は、彼女の家族となった者たちを密かに守っていた。|麒麟《きりん》の霊力をその人たちに与え、何かあれば気づくように細工をする。 たったそれだけのことだったが、今回は役にたったようだと説明した。 『でもさ。どうなっ

  • 鳥籠の帝王   心の扉を開いて

     落ちてきた鳥は|朱雀《すざく》だった。ボロボロな|身体《からだ》に、呼吸をするのも苦しそうだ。「鳥さん、大丈夫?」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》はひとりぼっちの寂しさもあり、鳥へと手を伸ばす。 触ってみれば日差しのように暖かい身体だが、|艶《つや》はなかった。安物とまではいかないが、お世辞にも毛並みがいいとはいえない。 それでも子供はひとりぼっちの寂しさから逃れようと、鳥を抱きしめた。ほわほわとした、ほどよい暖かさが子供の頬を緩める。「……ねえ鳥さん。僕ね、大切な人に裏切られてたんだ。信じてた人だった。だけど……」 親を殺した事実を知り、|全 思風《チュアン スーファン》という男を信用できなくなっていた。今までの笑顔や優しさ、温もりすらも嘘だったのだと、涙を交えて語る。 鳥をギュッと抱きしめ、その場で膝を抱えた。首にかけてある汚れた|勾玉《まがたま》を握り、視界が見えなくなるまで泣く。 勾玉を首から外し、唇を噛みしめた。「こんな物──」 必要ない。嘘つきがくれた物なんか持っていたくない。そんな思いをぶつけるように、|勾玉《まがたま》を投げようとした。 瞬間、鳥が慌てた様子で子供をとめる。バタバタと翼を前後に動かし、首を勢いよく左右にふった。「……何で、とめるの?」 子供の両目から滝のように流れる涙を、鳥は自らの翼で|拭《ふ》く。ふわふわとした羽が心地よいのか、子供は涙を止めた。「どうして? だってこれ……っ!?」 そのとき、少年は突然、強烈な頭痛に襲われる。頭を押さえ、その場に倒れた。心配するかのように近よる鳥に、弱々しく大丈夫だからと伝える。やがて子供は不可解な頭痛に襲われた── † † † † えーんえーんと、賑やかな町中で、ひとりの幼子が泣いている。銀の髪に美しい見目をした子供だ。幼子の足元には猫のぬいぐみが転がっている。 行き交う人々は幼子を一瞬だけ見た。それでも気にすることなく、次々と人々は流れていく。「|爸爸《パパ》、|妈妈《ママ》ぁ、どこぉー?」 どうやら迷子のようだ。泣きながらぬいぐみを抱きしめ、大きな瞳を涙でいっぱいにしている。人形のように|精巧《せいこう》な外見を持つ幼子は小さな体に似合わず、声を大きくして両親を呼んだ。「──ねえ、何をしているんだい?」「……っ!?」 泣き崩れる幼子へ影が落ち

  • 鳥籠の帝王   決戦

     |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》、そして|爛 春犂《ばく しゅんれい》。このふたりは率先して|朱雀《すざく》へと向かっていった。 |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》は大剣をふるい、その衝撃波で|朱雀《すざく》の翼を消そうとする。 霊力を剣にこめ、少しだけ肘を後ろへ|退《ひ》いた。片足を前に出し、体重を乗せる。そのまま突きの姿勢で、ふっと息を吐いた。|空《くう》を斬る音とともに地を蹴り、|朱雀《すざく》の背中へと斬りこむ。 けれど深紅の|焔《ほのお》が邪魔をし、大剣の先を溶かしてしまった。「……っ何!?」 男は急いで|朱雀《すざく》から離れる。溶けた剣の先端を見ては舌打ちし、|爛 春犂《ばく しゅんれい》に視線で答えを求めた。 すると|爛 春犂《ばく しゅんれい》は一歩前に出て、指揮棒のようなものを|朱雀《すざく》へと向ける。「気をつけなされよ。あれの|焔《ほのお》は、|魂《たましい》すらも犯す。触れた瞬間、魂そのものが|蝕《むしば》まれるぞ!」「……恐ろしいな……いや、まて! そうなると、あの少年はどうなる!?」 ふたりは|朱雀《すざく》の器になっている|華 閻李《ホゥア イェンリー》を見た。子供はふふっと|妖艶《ようえん》に笑っている。「……わからん。だが|閻李《イェンリー》はもともと、術師として非凡な才能を見せていた。術を使うのに必要な霊力はたんまりとあるのだろうな」 朱雀の|焔《ほのお》によって霊力を消費することはあっても、倒れることはないのだろう。倒れるとすれば精神を|歠《の》まれるか、体力に限界が訪れるか。それのどちらかだろうと|推測《すいそく》した。「……とはいえ、このままでは我々が先に殺られてしまうだろうな」 指揮棒のようなものを一振し、向かってくる深紅の|焔《ほのお》を弾く。そのまま札を投げ、朱雀を囲った。瞬間、札から細い線が現れる。線は札と札を橋渡り、|楕円形《だえんけい》の結果を作り上げた。 それでも朱雀にはあまり効果がないようで、結界は内側から少しずつ|焔《ほのお》によって溶かされ始める。「ふふ。無駄よ。この体の霊力は|無尽蔵《むじんぞう》。いわば、底無しなのよ。どれだけ使っても倒れはしないわ!」 そう口にした直後、硝子が割れるように、結界が砕けてしまった。 結界を|施《ほどこ》した|爛 春犂《ばく しゅんれい》は指

  • 鳥籠の帝王   集いし精鋭たち

     いくつかの扉を抜け、|全 思風《チュアン スーファン》は最後の場所とされる地へと到着した。そこは上下左右、前後など。全てが純白だけの味気ない世界になっている。「……何だ、ここは?」 腰にかけてある剣の|柄《つか》に手を置き、警戒しながら先へと進んだ。 けれどどれだけ進んでも、歩ませても、景色は決して変わることはない。そのせいか前を進んでいるのか、下がっているのか。東西南北がわからなくなってしまう。 ──本当に進んでいるのだろうか? いや。そもそも、歩いているのかすら怪しい。 頭がおかしくなりそう。 そう呟いた。瞬間、ここから少し離れた場所に何かを発見する。それは何かと目を細めた。 そこには金色の|刺繍《ししゅう》が施された|朱《あか》の|外套《がいとう》を着た者がうつ伏せで倒れている。七色に輝く長い髪、顔の右半分が黒い|墨《すみ》で塗りつぶされたような……端麗な顔立ちではあったが、お世辞にもきれいとは|云《い》えない姿だった。「……っ|小猫《シャオマオ》!?」 求めてやまない子供だと知り、急いで駆けよる。倒れている小さな体を抱き起こし、口に手を近づけて呼吸を確かめた。弱くはあるが、呼吸の音は聞こえる。そのことに安堵し、ホッと胸を撫で下ろした。 よかったと口にしたとき、子供のまつ毛が震える。「|小猫《シャオマオ》!? しっかりして、|小猫《シャオマオ》!」 大切な者を失う恐怖から焦りが生まれた。それでも名を呼ばずにはいられないと、話し続ける。 ふと、子供の|瞼《まぶた》が開かれた。左右が違う色になってしまっている瞳で彼を見る。「よかった。|小猫《シャオマオ》、もう大丈夫だからね?」「…………」  彼は涙をこらえ、ギュッと少年を抱きしめた。 子供は無言で頷き、彼の背中に両腕を回す。会いたかったと連呼する|全 思風《チュアン スーファン》の声を耳にしながら、感情のない瞳で彼とは違うどこかを見ていた。「怖い思いをさせてしまってごめんね!」 さあ、帰ろうと優しく伝える。そのとき── ドスッ。 奇妙な音とがした。その音に合わせるように、彼の両目が大きく見開かれる。 子供を強く抱きしめる彼は微笑み続けてはいた。けれど口元からは、|鉄錆《てつさび》色の液を垂らしている。 ごふっと、それを一度だけ吐き出した。 子供から手を離し、よろ

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